
A47式ヘッドフォンアンプの再考版、実機での動作を確認する。ここでの確認は、周波数特性、10kHzステップ応答、最大出力電圧。結論から言うと、残念ながら実機では周波数特性に問題があり(そのためステップ応答にも問題)、結局、元々のA47式のままが良い。
これまでの話はこちら。
周波数特性とステップ応答
負荷は33Ω+1nF(1000pF)。
周波数特性の測定にはAanalog Discovery 2(AD2)を使う。AD2ではプローブで10Xは使えない(調整しきれない)ので、1Xで使う。詳細はこちらの記事。
プローブを1Xで使うと、ケーブルの浮遊容量が直接効くので実際の負荷容量はもっと大きくなる。その他諸々合わせて、おそらく+200pF程度。合計で1200pFくらいのかなり重い容量負荷の状態。ヘッドフォンケーブルでは5m超くらいに相当すると思う。
NJM4580

30kHzくらいからゲインはなだらかに下がり始める(位相補償Cが効いているため)が、途中から上がり始めて1MHzを超えたところに割と急峻な山が見られる。
10kHz矩形波のステップ応答では、その1MHz付近の山の影響か、リンギングのようなものが見える(これもリンギングというのかなぁ?)。


NE5532 (TI)

こちらは周波数が高いところでの山がもっとキツイ。
10kHz矩形波のステップ応答はギザギザの様子がNJM4580ちょっと違うが、いずれにしても素直ではない。


対策
どちらのオペアンプでも高域での減衰の様子が素直ではなく、おかしな山ができてしまいっている。あまりよろしくない状況なので対策を考える。
シミュレーション
実機で手探りするよりも、シミュレーションで当たりをつけたい。ということで、まずは、現状(負荷: 66Ω+1200pF)をシミュレーションで確認。
NJM4580

山が生じている周波数が実機とは違うが、シミュレーションでもやはりこうした山が見られる。
では、対策として出力抵抗R6を4.7Ωにしてみる(こういうこともあろうと思って実機にもパッドを用意してある)。これで、負荷の1200pFは4.7Ωで切り離された格好になり、その分、オペアンプは楽になるはず。

多少改善している。
しかし、この方法だと、出力インピーダンスにこの4.7Ωがダイレクトに加わってしまう。下のシミュレーション結果では縦軸がV(電圧)だけど、電流が1AなのでそのままΩとして読める。

そこで、この4.7Ωを帰還ループの中に入れてみる。

これなら、1kHzで約35mΩ、20kHzで約700mΩ。4.7Ωと比べるとだいぶ小さい。ダンピングファクタの悪化は小さく抑えられる。

周波数特性は、帰還ループの外に4.7Ωを置いた場合と変らない。
この方法で良いのなら、各オペアンプの出力抵抗(出力合成用の抵抗)を10Ωにするのもありかも?

ところが、残念ながら、逆に悪化。
NE5532
これも、66Ω+1200pFでシミュレーションを行う。

実機で見られた変なピークはないが、素直に減衰するわけでもない。ともかく、実機とはだいぶ違う。うーん…。NE5532はSpiceモデルがメーカからは提供されていないので、そのへんに転がっていたものを持ってきたからかな?いずれにしても、これでシミュレーションを行っても意味がなさそうなので中止。
実機確認
シミュレーションの結果をもとに、二つのオペアンプの出力を合成したあとに4.7Ω(帰還ループ内)を入れて実機での動作をチェックする。パターンカットが必要になるけれどしょうがない。それから、手持ちパーツを確認したら、4.7Ωはなかったので、10Ωの二段重ねで対応。
NJM4580

若干改善しているけれど、相変わらず山がある。シミュレーションどおり。


リンギングも「若干良くなったかな?」という程度。
NE5532

こちらも山が少し低くなった程度。


リンギングも小さくなっている。
ところで、現状の66Ω+1200pFはかなり重い負荷。そこで、負荷条件を変えた状態も確認しておく。
66Ω+700pF
負荷として加えるコンデンサを470pFにする。残りの200pFはオシロスコープのプローブ等の容量。

相変わらず山はあるが、だいぶ低くなった。


リンギングもだいぶきれいになった。700pFは、ヘッドフォンのケーブルだと3m以上に相当すると思われる。
33Ω+1200pF

この組合せでも先程と同じような傾向。


33Ω+700pF

この組合せなら、山はかなり抑えられる。リンギングの様子もかなりおとなしくなった。


出力合成用抵抗: 20Ω
山は低くなったが抑え込んだというには程遠い。もっとも、1200pFという負荷容量が大きいせいではあるけれど、安心のためにはこれくらいに耐えて欲しい。
そこで、各オペアンプの出力の抵抗を大きくしてみる。シミュレーションでは10Ωでは効果がなさそうだったので、20Ωを使ってみる。合成後の抵抗はなし(構成はA47そのもの)。
負荷は、66Ω+1200pF。
NJM4580

測定周波数範囲をうっかり変えてしまったようだ。先程までは上限が5MHz、今回は25MHzで実行してしまっている。また、縦軸もちょっと違う(先程は-12~+8dB、今回は±10dB)。
高い周波数での山は消えたが、まだ素直な減衰というわけではない。そのためか、ステップ応答でもわずかながらリンギングが見られる。

NE5532

こちらはまだ山がハッキリ見られる。

出力合成用抵抗: 47Ω
ここまで来たら、いっそ、元々のA47式通り、各オペアンプの出力に47Ωを入れて合成する方法をやってみる。
NJM4580

測定周波数範囲は上限を5MHzに戻した。縦軸も戻した。かなり良くなったと思う。ステップ応答でもリンギングが見られなくなった。

NE5532

一気に良くなった。減衰カーブがNMJ4580よりも素直。リンギングも解消。

結局のところ、A47式そのままがベストってことか。
ドライブ能力
今度は、何Vまで歪まずに出力できるかのテスト。単純には負荷抵抗が低いほうが電流をたくさん流さなきゃいけなくなるので厳しい。しかしながら、現実で考えると、インピーダンスが低いものもはイヤフォンで、イヤフォンだと能率が高いものが一般期なので、必要音量を基準にすると必要な電圧は大したことはない。それよりも、インピーダンスが高く、能率の低いヘッドフォンのほうが鳴らしにくい(音量を稼ぐのに高い電圧が必要)。
そこで、負荷抵抗は66Ωの状態で出力がクリップする電圧をチェックする。負荷容量は1200pF(前述のとおり、1000pFのコンデンサとケーブル等の容量の合計の推計値)。
なお、回路構成は、上の結果を受けて出力合成用抵抗は47Ω。
NJM4580
まず、入力電圧は低めで、きれいな出力が得られることを念のため確認。信号は1kHzの正弦波。

入力電圧を上げていくと、マイナス側が先にクリップ。-2.7Vくらい。

ちなみに、出力合成用抵抗が4.7Ωだと-3.1V強までいける。

話を戻して、マイナス側が先にクリップし、その電圧が-2.7Vなので、クリップしない最大電圧は±2.7Vということになる。
インピーダンスが66Ω・能率が90dB/mWのヘッドフォンを想定して、±2.7Vだと107.4dB SPLの音量が得られる(Geminiに計算してもらった)。
1. 実効値電圧 (Vrms) の計算
ピーク電圧 2.7V から実効値電圧を求めます。
$$V_{\text{rms}} = \frac{2.7}{\sqrt{2}} \approx 1.909 \text{ V}$$2. 供給電力 (P) の計算
実効値電圧とインピーダンス 66Ω から、ヘッドフォンに供給される電力を求めます。
$$P = \frac{1.909^2}{66} \approx \frac{3.645}{66} \approx 0.0552 \text{ W} = 55.2 \text{ mW}$$3. 音圧 (SPL) の計算
能率 90dB/mW を基準に、55.2mW 入力時の音圧を求めます。
$$\text{SPL} = 90 + 10 \log_{10}(55.2) \approx 90 + 17.42 \approx 107.4 \text{ dB}$$
出力抵抗を47Ωにしたためか、設計段階で目標としていた110dBや115dBには届かないけれど、107dBならクレストファクタ(平均音圧とピーク音圧の差)を20dBだとすれば平均音圧は87dB。これは爆音状態なので充分だろう。ヘッドフォンの能率が高ければ、当然、もっと音圧は挙がるわけだし。
NE5532


±2.5Vくらいまではきれいだけれど、それを超えるとマイナス側に微小な振動が発生する。±2.5Vとして、上のNJM4580と同じ条件で計算すると、音圧は106.8dB。概ね同じような音圧。
まとめ
結局、A47式に戻ることになった。生成AIを使って回路を再建としてより良いものを作りたいと思っていたが、残念ながらそうはいかなかった。シミュレーションでは非常に良かったのだけど、実機では残念な結果だった。改めて、A47式が改正された定数であることを認識する結果となった。
音に関しては、特段の不満はない。オペアンプをNJM4580とNE5532と変えて聞いてみたけれど違いはわからない。まぁ、測定機が「私の耳」なので…。とはいえ、ヘッドフォンを変えるとその違いはよく分かる。ヘッドフォンの違いと比べれば、オペアンプの違いなんて微々たるものということか?
なお、出力オフセット電圧は、どちらのオペアンプも1mV未満だった。
これまでの話はこちら。






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