概要・背景
オペアンプ一発のシンプルなステレオヘッドフォンアンプです。設計ポリシは次の二つ。
- モバイルバッテリで動作すること
- 回路とケースをプリント基板1枚(100x100mm)に収めること
いわゆる「ポタアン」としての使用を想定しています。ポタアンの自作で厄介なのは電源です。電池を内蔵させること自体はさほど面倒ではありませんが、電池だと交換が必要ですのでケースにはその交換作業が容易にできる構造が求められます。しかし、電池蓋にはネジは使いたくありません(交換作業が面倒なので)。
Li-Poなどの充電池を内蔵させれば交換の頻度は減らせますから、ネジ留めも許容範囲かもしれません。しかし、そうすると充電回路が必要ですし、電圧が低いので昇圧回路も必要になり、大掛かりな装置になってしまいます。
3Dプリンタでケースを作れば自由度も高く、電池蓋もいい感じのものが作れるのだろうと思います。しかし、残念ながら私にはそのスキルがありません(いろいろやってみたけれど、満足できる、というか、自分として許容できるものが作れない)。
そこで、逆に電源は外付けにすることにしました。それなら、電池蓋の問題は生じませんから、いつもの「プリント基板ケース」の手法が使えます。
では、電源は何を使うか?ヘッドフォンアンプを動かすことを想定すると、一番手軽なのは9Vの乾電池です。しかし、容量が小さいので電池交換が頻繁になってしまい面倒です。それに、9Vの電池は高価で不経済です。
ポタアンの使用形態を考えると、外に持ち出して使うことが多いだろうと思います。その際、モバイルバッテリも持っているのは割と普通かなと。ならば、モバイルバッテリを電源として使えば良さそうです。電圧は5Vなので少々低いですが、5Vで動作可能なオペアンプもあります。
ヘッドフォンアンプの消費電力はたかが知れていますから、このアンプでモバイルバッテリを使ったところで、スマートフォンの充電回数などに大した影響はないでしょう。また、使わなくなったモバイルバッテリがあるなら、それを再活用するという手も考えられます。
電源をモバイルバッテリにするのなら、ヘッドフォンアンプ自体はできるだけ小型にしたいです。手軽に持ち運べるように。それなら、いっそのこと、プリント基板一枚に回路とケース部材を収められないか?それに挑戦したのが今回のヘッドフォンアンプです。コンパクト性を重視するため、基板厚は1.2mmにしました(通常は1.6mm)。
仕上がりサイズは、42.2×48.6×18.4mm(突起物は含まず)です。
音質は感覚的な要素が大きいのであまり触れないでおきますが、私個人の感想を一言で表すなら「元気がいい」という印象です。
回路構成
アンプ部
アンプ部の回路を下図に示します。
アンプは、最初に書いた通り、オペアンプ一発のシンプルなもので、非反転増幅回路です。電源は抵抗分圧によって仮想的なGND(GNDREF)を作り、擬似的に正負両電源にしてます(電源部の詳細は後述)。電源オン・オフ時のポップ音を小さく抑えるために両電源の構成にしました。興味があれば、こちらの記事をどうぞ。
使用しているオペアンプはアナログデバイス社のAD8532です。本当は出力のカップリングコンデンサは使いたくなかったのですが、このオペアンプは入力オフセット電圧が比較的大きいため(max 25mV)、出力オフセット電圧が大きく、DC分をカットせざるを得ませんでした。NJM4580等オフセット電圧が小さいオペアンプもありますが、試した範囲では電源電圧が5Vでは充分な音量が得られませんでした(レール to レール動作ではないので)。試行錯誤の結果、AD8532を使って、出力カップリングコンデンサを入れることで妥協しました。余談ながら、このタイプのヘッドフォンアンプを頒布するのは初めてですが、モデル名はMNHA04なのは、その試行錯誤ゆえです。01、02、03は試作段階でボツにしました。
アンプ部の増幅度は3倍ですが、出力に保護目的で22Ω(イヤフォンのインピーダンスとだいたい同じ程度)を入れているので、その分を差し引くと増幅度は概ね半分程度になります。スマートフォンなどからはイヤフォンを鳴らすのに充分な電圧が出てていますから、このアンプでは電圧を増幅する必要はありません。音量を上げるのではなくて、ヘッドフォンをドライブするのが目的です。必要以上に増幅度を上げるとかえって使いづらいので、この程度にしてあります。
音量調整の可変抵抗は付けていません。使用形態を考えると、再生装置に音量調整は付いているでしょうから、そちらを使うことにします。回路をシンプルにする(小さくまとめる)ために割り切りました。見方を変えれば、可変抵抗による音質の劣化やギャングエラーの悩みからは開放されるという利点もあります。
電源部
ノイズフィルタ
モバイルバッテリはスイッチング式の昇圧回路によって5Vを作り出しているので、ノイズが乗っています。それを除去する目的で、簡単なフィルタを電源部に入れています。
疑似正負電源
前述のとおり、電源の5Vを抵抗による分圧で擬似的に正負両電源にしています。
単電源を分圧してで両電源化するにはオペアンプを使ったレールスプリッタなどもありますが、シミュレーションの結果、単純な抵抗での分圧で充分だと判断しました。興味があればこちらの記事をご覧ください。
モバイルバッテリのオートパワーオフ対策
モバイルバッテリは基本的にはスマートフォンなどの充電を目的に作られています。充電時は比較的大きな電流が流れますので、電流が一定の値を下回ったら充電が完了したと判断して、モバイルバッテリが電源の供給をストップします。ヘッドフォンアンプのように消費電流が小さな装置だとこれが問題です。稼働していてもモバイルバッテリの電源断のしきい値を下回り、電源供給がストップしてしまいます。
この問題を回避するために、常時、一定電流を流す抵抗を付けられるようにています。回路図上のスイッチのそばのR3とR6がそれです(通常は実装しないのでバツ印を付けてあります)。120Ω(1/2W)を2本、並列ですので60Ωで、80mA強が流れます。この程度流しておけば、オートパワーオフを回避できるようです。なお、大きめの電流は常時流しておく必要はなく、間欠でを流せば回避できるようですが、回路が複雑になる(規模が大きくなる)ため、採用していません。
なお、最近は消費電流が小さい装置にも対応できる「低電流モード」を備えたモバイルバッテリもいろいろと出回っています。そうしたモバイルバッテリなら、このような「電気の無駄遣い回路」は不要です。私は、こちらのモバイルバッテリを使っています。
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興味があれば、こちらの記事もどうぞ。
使い方
本装置の他に、以下のものが必要です。
- 音楽再生装置(スマートフォンなど)
- 音楽再生装置と本装置をつなぐケーブル(本装置の入力端子は3.5mmステレオジャック)
- 5Vの電源(モバイルバッテリなど)
- 電源と本装置をつなぐ電源ケーブル(本装置の電源端子は、5.5/2.1mmの一般的なもの)
- ヘッドフォン、または、イヤフォン
背面に信号入力端子と電源端子があります。
正面はヘッドフォン端子(3.5mmステレオジャック)と電源パイロットランプです。
電源スイッチは左側面にあります。
上に書いたように、ボリュームはありません。音量は再生装置で調整してください。
製作編
いきなり組み立てずに、一度、全体を通してご覧ください。流れを把握しておくと作業がスムーズだと思います。
回路図と部品表
回路図と部品表はPDFで用意しております。
基板の分割
基板を分割し(手で曲げれば簡単に折れます)、バリをヤスリで落とします。長いバリはニッパ(使い古したものや百円均一のものなど)で切り取るとヤスリがけが少なくて楽です。ただし、くれぐれも必要な出っ張りを誤って切ったり削ったりしないよう注意してください。
ヤスリがけを少なくするために接続部分を非常に細くしているため、輸送(輸入)時に基板が割れて(分割されて)しまっていることがあります。どのみち分割して使うものですので、製作・動作には問題ありません。ご了承ください。
削った後は粉を拭き取ってください。これまでの経験では、拭き取りよりも丸ごと水洗いするのが楽です。
それから、小さな基板はおまけです。「土地」が余ったので作りました。SOP8のDIP8化基板と、SOT23を2.54mmピッチに変換する基板です。片面が白いのはメモ書きできるようにというつもりです。なお、テストはしていません。ご了承ください。いずれにしても、この装置では使いません。
ケース仮組み
仮組みして上手くはまることを確認します。とはいえ、中身が空の状態では、箱状に組み立てるのは結構難しいです。それぞれの穴と突起が上手く嵌合することを確認すれば大丈夫です。
差し込みがきつい場合は、突起の角をヤスリで軽く削ってください。製造上、穴の角は丸くなるのでときが入りにくいことがあります。
また、奥まで差し込めず、隙間が出てきてしまう場合は、突起の付け根を直角に削ってください。これも製造の都合で丸くなってしまうためです。
なお、基板には多少の反りがあることもあるので、完全にピッタリにとは限りません。ご了承ください。
チップ部品
本キットに含まれるチップ部品はこちらの写真のものです。
左の上がコンデンサとフェライトビーズ。この二つは印字等はありません。色が比較的薄いほうがコンデンサ、濃いほうがフェライトビーズです。それぞれ一種類ずつです。
左下は、左からインダクタ、ポリフューズ、オペアンプです。
右は抵抗です。抵抗には値が印字されているのでわかるでしょう。
部品のハンダ付け
実装スペースの都合で、抵抗等はチップ部品を採用しています。オペアンプもチップ部品です。チップ部品のハンダ付けに関しては、こちらの記事をご覧ください。
回路図のPDFに部品配置図も入れてありますので、参考にしてください。
オペアンプは、向きに注意してください。右下が1ピンです。
最初にチップ部品をすべて付けてください。すべてのチップ部品を付け終ったあとは、一息入れてから、付け間違いやハンダ忘れ、ハンダブリッジがないか良くチェックしてください。電解コンデンサなどの大きい部品を付けたあとではチップ部品のチェックはしづらいですし、ましてや修正はかなり大変です。チップ部品だけを付けた段階でしっかりチェックしてください。
電解コンデンサのC9とC10(220μF)は両極性ですので向きはありません。基板のシルク印刷は極性付きのものになっていますが、無視してください(基板を作ったあとでミスに気づきました。ご了承ください)。
【追記】追加頒布に際して、シルク印刷のミスを修正しました。今はC9とC10には間違った極性表記はありません。
【追記ここまで】
LEDは向かって左が+です。
下の写真のように90度曲げて実装します。実装後に微調整可能ですので、あまり神経質にならなくて大丈夫です。パネルを当てて確認すると良いと思います。
L1(インダクタ)は機械的な力に弱いです。ちょっと無理な力をかけてしまうとポロッと外れてしまいます。私は、フラックスを除去でL1をゴシゴシ拭いていたら取れてしまいました。電極が取れてしまうため、修復は不可能です(部品交換)。気をつけてください。
モバイルバッテリのオートパワーオフ対策部品
上で説明したモバイルバッテリのオートパワーオフの対策を行う場合は、R3とR4(120Ω、1/2W)を実装します。
低電流モード付きのモバイルバッテリであれば、この対策は不要です(抵抗は実装しない)。無駄に電気を食うだけですから(しかも、アンプに比べて遥かに大食い)。
もし、実装したあとで、この対策をやめる場合は抵抗を抜いてもいいですが、裏のJP1の間をかったナイフなどでカットしてもOKです。その後、また対策を有効化する場合は、カットしたJP1をつないで(ショートして)ください。
動作確認
一通り実装が終った様子です。
今一度、部品の付け忘れ、付け間違い、向きの間違い、ハンダ忘れ、ハンダブリッジがないかチェックしてください。また、電源とGNDがショートしていなことも確認します(チェック時には電源スイッチを入れ忘れないように)。
背面のline inに適当な信号源をつなぎ、電源を入れてヘッドフォン(またはイヤフォン)から音が出ることを確認します。
動作しない場合は、繰り返しの容易なりますが、問題の原因の大半は、次の三つです。
- 部品の付け間違い(向きの間違い)
- ハンダ不良
- ハンダブリッジ(ハンダくずの貼り付き)
ルーペなどを使ってじっくりと、焦らず落ち着いてチェックしてください。
ケース組立て
この順番通りでなければダメというものでもありません。ご自分のやりやすい方法で構いません。ここで示した順序は一例とお考えください。
まず、回路基板に前後のパネルを取り付けます。3.5mmジャックのネジは軽く締めておきます(強く締めすぎないこと)。
続いて、底板にビス(長い方)を通します。
裏に適当な板を当てがいます。ケースの天板を使うのが手っ取り早いです。
この状態でビスが上に向くようにひっくり返して置き、スペーサを取り付けます。
部品を実装した基板を乗せ、スタンドオフを締めます。スタンドオフが外れない程度に軽く締めるだけでOKです。
前後のパネルの突起を底板の穴に嵌合させてから、ネジを締めます(プラネジですので締め付けすぎないでください)。
左右のパネルを立てます。
あとは天板を載せてビスで締めます。
3.5mmジャックのネジも少し増締めしておいてください。
これで完成です。好みで底に市販のゴム足を貼り付けてください。ただし、持ち運ぶことが多いようでしたら、貼り付けたゴム足はズレたりはがれたりしがちだと思いますので、その点には注意してください。
頒布
- 部品の調達の都合上、上の写真とは異なる場合があります。ネジ類も同様です。
- コストダウンのため、ほとんどの部品は海外通販で調達しています(電解コンデンサは国産品)。
- 基板に若干の色ムラがあることがあります。格安基板製造サービスを利用しているため、ある程度は仕方ないようです(ひどい場合は作り直してもらっていますが、ゼロにはならないみたいです)。より高品質な製造サービスならきれいに仕上がるかもしれませんが、コストが大幅に上ってしまいます。ご了承下さい。
- 本機のマニュアルは当ページがすべてです。紙媒体はありません。また、本機は電子工作の経験がある程度ある方を対象としております。抵抗のカラーコードやコンデンサの値の読み方など、基本的なところの説明はしていません。電子工作の基本については、こちらのページに参考になりそうなサイトなどをまとめてあります。
- 資源の有効活用のため、梱包材は再利用することがあります。ご了承ください。
- 仕様や頒布価格は予告なく変更することがあります。
- 本機の組立てや使用による怪我・事故等には責任を負いません。
【価格】
- 頒布価格: 2,000円
- オプション(USB電源ケーブル): 120円
- 送料: 280円
- 支払い方法: 銀行振込
オプションのUSB電源ケーブルはこちらです(入手時期によって多少変ります)。モバイルバッテリとの接続に使えます。必要に応じてどうぞ。
【申込みフォーム】
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