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Crossfeedを試す

ヘッドフォンで音楽を聞くと、スピーカとは違って、頭の中でなっているのがどうも不自然。それを緩和するらしいクロスフィード(Crossfeed)がどうも気になる。以前一度試したことがあるけれど、上手くいかずに放置。

Crossfeedアダプタ
隙間で作った小物シリーズ第三段。ヘッドフォン使用時の定位の不自然さを緩和するらしいCrossfeed。一度試してみたかったので。回路と定数は、こちらのサイトにあった一番シンプルなもの。Xfeed | Ka's Secret Blog本当は、…

最近、ヘッドフォンアンプをあれこれいじっていて、このクロスフィードを思い出したので改めて試してみる。

Crossfeedの概要

まず、参考にするのはこちらのページ。

以下、Geminiによる要約。

【技術要約】Meier型クロスフィード・フィルターの回路的特長と低域補正メカニズム

Jan Meier氏の論文「An Enhanced-Bass Natural Crossfeed Filter」は、ヘッドホン特有の頭内定位を解消しつつ、従来のクロスフィード回路が抱えていた「低域のエネルギー減衰」という構造的欠陥を、パッシブ回路のみで解決した秀逸な設計です。

  • アコースティック・クロストークの欠落と従来回路の課題
    ヘッドホン再生では、空間における左右の音の交わり(アコースティック・クロストーク)が欠落するため、不自然な頭内定位と聴覚疲労が生じます。これを防ぐため、交差信号にローパスフィルター(LPF)をかけ、頭部遮蔽効果に伴う両耳間レベル差(ILD)と時間差(ITD)を電気的にシミュレートしてミキシングするのがクロスフィードの基本です。しかし、単純なRC合成では中高域に対する低域の相対的なエネルギーバランスが崩れ、結果として「音が痩せる」副作用がありました。
  • RCネットワークによる低域補正(シェルビング・フィルター)
    この回路の核心は、直接音(ストレート)の信号経路に挿入された直列のRCネットワークにあります。交差側のLPFとカットオフ周波数を厳密に協調させた「シェルビング・フィルター」を直接音側に形成することで、左右信号が合成された際に不足する低域のゲインをあらかじめ電気的に補正(リフト)し、全帯域においてフラットな聴感上の周波数特性を維持しています。
  • パッシブ設計による純度の維持
    能動素子(オペアンプ等)によるアクティブEQやデジタル領域でのDSP処理に頼ることなく、抵抗とコンデンサのみを用いた受動(パッシブ)回路だけで、位相特性のコントロールと振幅(ゲイン)の補正を同時に成立させています。信号の純度を損なわずに自然なステレオイメージを構築できる点が、このトポロジーがオーディオ回路の名作として評価される最大の理由です。

ここで、『単純なRC合成では中高域に対する低域の相対的なエネルギーバランスが崩れ、結果として「音が痩せる」副作用』とあるが、これについては、以前別ページにまとめた。

ステレオをモノラルにすると高域が痩せる理由――位相キャンセレーションという見えない犯人
ステレオ録音の音源をモノラル化すると高域が引っ込んで聞こえる現象について、生成AI(Perplexity)にまとめてもらった。ステレオで聴いているときはシンバルがキラキラしているのに、モノラルに切り替えた途端、急におとなしく感じることがあり…

シミュレーション

参考ページのFigure 3の回路をLTspiceで見てみる。

V1を1Vに、V2を0Vにする。これで、out1にはV1からの信号が基本的にはそのまま、out2にはV1からの漏れ信号が出てくるはず。シミュレーション結果は以下。

out1(赤)は低域は-2dBくらいで、数百Hzから徐々に上がっていき、2kHzくらいで-1dB程度。それ以上はフラット。低域は2kΩを通り、ある程度周波数が上がると200nF+330Ωの方がインピーダンスが低いので出力レベルが高くなる。

out2(青)は低域は-12.5dBくらいで、200Hzあたりから下がっていく。これは、2.2kΩと47nFのLPFが効いている結果。

V2にも信号がある場合は、このout2と同じだけの量がout1に加わることになる。ということで、V(out1)+V(out2)したものが緑のライン。

全体的にレベルは概ねフラット。数百Hzより上が1dBくらい下がっている感じかな?これが、enhanced-bassってことなんだろう。位相は若干の乱れが見られるが、数度の範囲に収まっている。

実際には、後段にヘッドフォンアンプがつながるので、それを想定して出力に10kΩをぶら下げてみる。

この結果だと、全体的ほぼフラットと言っていいかな。レベルが若干下がる程度。

ついでの余談。出力にぶら下げる抵抗を16Ωにしてみたのが下の図。

全体的にレベルがガタ落ちで、低域の下がりが特にひどい。なるほど、イヤフォンを直接つないでみたかつての実験ではこういうことが起きていたのね。やはり、ヘッドフォンアンプの前に入れなきゃいけない。もしくは、負荷インピーダンスを考慮した定数にする(参考ページの最後の方にそういう話がある)。

話を戻す。

この回路では、200nFという、あまり一般的ではない容量が使われている。抵抗も、2kΩと2.2kΩという微妙な使い分けがされている。おそらく、理論・理想を追求するとそういう値になるのだろう。でも、あまり一般的でないものは避けたいので、220nFと2.2kΩにしてみる。

ほぼ変わらないと見て良さそう。

試聴

実際に組んで聞いてみる。

うーん、これを入れても入れなくても何も違わないように聞こえる。効果をまったく感じない。でも、単純な抵抗ミックスのように高域が引っ込むようなこともない。まぁ、そうならないように高域は混ざらないような工夫がされているわけだけど。だからこそ、まったく変化を感じないと言うか。

音源にもよるだろうと思って、色々聞いてみたけれど、どれも変化を感じなかった。

そこで、Geminiに相談したところ、ミックスのレベルを上げるという提案をしてくれた。そのためには、R5とR6を1kΩにする。それに伴って、フィルタ効果を維持するために、C3は100nFに変更。

漏れ側(V(out2))のレベルが3dBくらい上昇するようだ。これなら横の端の方に定位しているものが少し中央寄りになるのかな?

こちらも実際に組み立てたので、試聴。

うーん、これでもほとんど変化を感じない。ちょっと違うといえば違うような気もする。

じっくり聞いていると、効果があるというか、そのために不自然に感じるものがあった。例えば、右に定位しているトランペット。割と高めの音を吹いているときには右側に聞こえる。しかし、低めの音に下がってくると、ふわーっと中央寄りに移動してくる。「このラッパ、歩き回りながら吹いているのか?」って感じ。漏れ側のレベルを見れば、この動作には納得できる。下から200Hzくらいまではフラットに混ざり、そこからは徐々に混ざり具合が減っていくのだから。つまり、減衰カーブに合わせて音像が移動する。これはこれでやっぱり気持ち悪い。かと言って、高域までしっかり混ぜてしまうと、最初の方に書いた位相の問題で高域が死んでしまう。

結局のところ、Crossfeedは効果をほとんど感じない程度にうっすら使う(元々の定数)のが適切なんだろう。

測定

周波数特性を実測してみる。回路は元々の方(2.2kΩと47nFを使っている方)。負荷は10kΩ。

まず、入力側と同じチャネル。

シミュレーション通り、低域はレベルがわずかに低い。

続いて、他チャネル、つまり、漏れ側。

周波数が高いほうが減衰しているのでカーブとしてはシミュレーションと同じように見える。が、レベルがシミュレーションよりはずいぶん高い。シミュレーションでは、低域は-15dBくらい、1kHzで-20dBくらい。しかし、この実測結果では、低域(100Hz)が-5.9dB、1kHzでも-6.0dB、5kHzで-14.0dBと、かなり高い結果。

なお、数十kHzで下がったレベルが再び上がっているのは、ケーブルの影響。浮遊容量でクロストークしていると思われる。まぁ、安物ケーブルだし。

もう一つの方(1kΩと100nFを使った方)も測ってみる。

うーん、漏れのレベルは全然と言っていいほど変らない。なんでだろう?

それにしても測定結果と聴感が一致しない。もし、漏れがこれほど大きいなら、左右がもっと混ざってステレオ感がかなり薄れると思うのだけど。また、二つを聴き比べると多少は違いがあるように感じるのだけれど。測定方法に問題があるのだろうか?

念のため、接続に使った二本のケーブルのそれぞれの漏れ特性。

低域で漏れているようなことはさすがにない(位相が暴れているように見えるのは、レベルが低すぎてまともに計測できていないため)。10kHzで-40dBくらいでそこから上は更に高くなってしまっているけれど、例えばアナログレコードのカートリッジではチャンネルセパレーションは30dBくらいであることを考えれば、まぁ、それほどひどくもないかな。ともかく、漏れがシミュレーションよりも大きい値なのは、ケーブルのせいではなさそう。では、なんだろう?わからん…。

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